日本大学大学院知的財産研究科

テロリズムとメディア報道 ~英米におけるテロ報道に関する制度の考察(1)

福田充教授の論文「テロリズムとメディア報道~英米におけるテロ報道に関する制度の考察」が日本民間放送連盟研究所の学術誌『海外調査情報』第11号に掲載されました。2015年1月に発生したイスラム国日本人人質テロ事件を受けて、テロリズムを報道するメディアの役割について国際的に検討した論文です。 2015年3月

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■テロリズムの時代とメディア報道

2015 年1月に発生したイスラム国邦人人質事件では、イスラム国(Islamic State)に拉致、誘拐された日本人2名が殺害されたが、イスラム国はこの人質の生命と引き替えに2億ドル(230 億円超)の身代金を要求した。テロリズム研究によれば、これは人質テロ事件であり、要求型テロリズムである(福田,2009)。今回のイスラム国による邦人人質事件が、これまでのテロ事件と異なる新しい点は、イスラム国が自ら編集した動画をYouTubeやFacebook、Twitter などソーシャル・メディアを活用して、世界の一般市民に向けて直接メッセージを発信したことである。このソーシャル・メディアの威力は、中東においても2011 年の「アラブの春」において発揮された(福田,2012)。現在では既に様々な政治運動において、このソーシャル・メディアによる宣伝・拡散と参加・動員の戦略は不可欠になっている(福田,2014)。テロリズムとメディアの問題は、ソーシャル・メディアの時代に突入したといえる。

イスラム国は2014 年にカリフ制による建国を宣言し、シリア、イラクで戦闘を拡大している過程で同時に数多くのテロ事件を起こしている。アメリカ人の人質事件では、イスラム国は同様に動画メッセージにより米軍による空爆の中止を求めたが、オバマ政権はそれに応じなかった結果、アメリカ人人質も殺害された。アメリカでは、テロリストの要求に屈しない、交渉しない、というのが「テロとの戦い」の鉄則である(福田,2010)。しかしながら、特殊部隊による人質救出作戦は失敗することが多く、人質殺害への報復は空爆の強化となる。イスラム国によるイギリスの人質事件でも同様の経過をたどった。

昨年から今年にかけて、イスラム過激派に関連するテロ事件が欧米諸国でも連続した。2014 年10 月には、カナダで連邦議会議事堂銃乱射事件が発生した。同年12 月にはオーストラリアで人質事件など連続テロ事件が発生した。2015 年1 月には、フランスでシャルリ・エブド紙襲撃事件が発生している。時代は再びテロリズムの時代に突入し、グローバル・テロリズムに対する国際的な取り組み、国内的な取り組みが必要とされている事態である。同様に、テロリズムをどのように報道すべきか、世界中のメディア、ジャーナリズムも報道の姿勢を問われている。

※学術誌『海外調査情報』第11号掲載

(PDFはこちら 海外調査情報vol.11 福田充教授

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福田 充(ふくだ みつる)

1969(昭和44)年生まれ。コロンビア大学客員研究員を経て、日本大学大学院新聞学研究科教授。博士(政治学)。東京大学大学院・博士課程単位取得退学。専門はテロや災害などメディアの危機管理。内閣官房等でテロ対策や危機管理関連の委員を歴任。著書に『メディアとテロリズム』 (新潮新書) 、『大震災とメディア~東日本大震災の教訓』(北樹出版)などがある。

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