日本大学大学院知的財産研究科

「自己責任論」「イスラム国呼称問題」「日本の思考停止」後藤さん湯川さん事件が日本に与えた波紋

福田充教授のインタビュー記事「「自己責任論」「イスラム国呼称問題」「日本の思考停止」後藤さん湯川さん事件が日本に与えた波紋」が、『ハフィントンポスト日本版』に掲載されました。イスラム国人質テロ事件を受けたメディア報道のあり方、政府の危機管理についてのインタビュー。伊藤大地記者取材です。 2015年3月

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「自己責任論」「イスラム国呼称問題」「日本の思考停止」後藤さん湯川さん事件が日本に与えた波紋(ハフィントンポスト日本版伊藤大地 記者取材)

ダーイシュ(イスラム国)による後藤健二さん、湯川遥菜さんの人質殺害事件から2カ月弱。後藤さんが拘束され、殺害が明らかになるまで、メディアではダーイシュのビデオメッセージを流し続け、テロリストの発信する情報にメディアも視聴者も釘付けになる状態が続いた。

テロにおける報道は、どのようにあるべきなのか。また、政府はテロリストに対してどのように対応すべきなのか。メディア論やインテリジェンスを研究し、『メディアとテロリズム』の著書もある、日本大学法学部教授の福田充さんに話を聞いた。

報道のあり方は、平時に話し合うべき

――2月のダーイシュ(イスラム国)による邦人殺害事件に関して、メディアがテロリストの発信する情報に振り回された部分があったと思います。まず専門家として、率直な感想を伺えますか。

もうちょっと慎重であって良かったと思います。テロリストの意図に対して、メディアがどういう立場で報道するべきかということの、心構え、態度が普段からあるべきですが、残念ながら日本のメディアは新聞もテレビもそれをきちんと議論し、社会に共有していない。だから、出てきた情報に乗っかり、飛びついて、集団的過熱報道、メディアスクラムのような状態に陥る。イスラム国を支持しているわけではないのに、結果的に宣伝のために使われてしまうわけです。

もちろん、慎重なメディアもあったと思いますが、全体的にはそういう印象です。

――報道のあり方はいつも事後に議論になりますね。

戦争も紛争もテロリズムも、政治的闘争です。

その扱いを、非常時になってから議論するのは危険だと思います。意見の正当性よりも、どちらの味方をしているのかに焦点が当たってしまう。非常時には、国家権力も国防という大義名分を理由に、議論をコントロールしようとします。平常時にこそ冷静に、メディアが主体になって、有事の際に政府とどうやって向き合って報道するのか議論しておくのが大事だと思います。

――メディア側がやるべきことは、平時における非常時のルール作り。日本はそれをどうやって構築すべきですか。たとえばBBCは、テロや戦争報道について事細かに規定していますね。

イギリスは一次大戦の頃から、「Dノーティス」という制度を作り、政府とメディアがあるべき論を話し合ってきた。二次大戦、戦後のIRAとの戦いやフォークランド戦争と連綿と積み上げられた蓄積があります。日本はやはり、敗戦で一度、大きな断絶があるので簡単にコピーするのは難しい。かといって、政府とメディアが絶えず拮抗するアメリカのような形でもないし、政府が完全に監視下に置く中国型でもない。戦後民主主義の中で、非常に立ち位置が曖昧です。

日本のテレビや新聞社も内部のガイドラインや規定はありますが、テロリズムとか戦争については踏み込んだものではなく、報道する上で自分たちの会社をどう守っていくかというコンプライアンス上の規定が多いんですね。テロリズムや戦争の問題をどう報道すべきか、という理念のようなものは入っていない。でも、そこが有事には大事なんじゃないか。平時にきちんと議論をしてガイドラインを作り、会社の方針として社外に出して欲しい。それはメディアに接する国民も知るべきものです。

事が起こる前に理念を構築しておいて、それに則って政府と闘うから、国民はメディアを支持する。それが曖昧でよくわからないまま報道されると、時には政府の肩を持っているように見え、時には数字を取るために政府を潰そうとしているように見え、国民も信頼が置けなくなる。誘拐報道ではきちんとした協定があるのだから、テロや戦争でも作ることは、決して不可能ではないと思います。

続きは、以下のサイトで。

『ハフィントンポスト日本版』

http://www.huffingtonpost.jp/2015/03/24/terrorism-war-media_n_6932140.html

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福田 充(ふくだ みつる)

1969(昭和44)年生まれ。コロンビア大学客員研究員を経て、日本大学大学院新聞学研究科教授。博士(政治学)。東京大学大学院・博士課程単位取得退学。専門はテロや災害などメディアの危機管理。内閣官房等でテロ対策や危機管理関連の委員を歴任。著書に『メディアとテロリズム』 (新潮新書) 、『大震災とメディア~東日本大震災の教訓』(北樹出版)などがある。

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